突然、湖

「湖でも見に行きますか」

というわけで、夜中に湖へ行ってきた。こんな無茶な提案は大体僕発信なのだが、今回は彼発信だ。山を登って行くのだが、別に綺麗な夜景が見えるわけでもないし、そもそも灯りもなく暗すぎて湖もほぼ見えないはず。そしてなにより、自転車を押しながら山を登るのはとてもしんどい。気温は高くなく、風は冷たいが、汗だくだ。

「おい、湖にはこの苦痛と同じくらいの感動があるんだろうな」

途中、猪等の動物に遭遇するのではないかという恐怖と戦いながら、なんとか頂上付近にある湖に到着する。もちろん、湖などほとんど見えないのだが。

「とりあえず外周しますか」

灯りのない道をひたすら自転車で走る。暗闇の中から何人かの釣り人が現れたときは、恐怖のあまり二人とも変な声が出た。ある程度まで行くと、山を下る道が見えてきた。ただ、登ってきた道と違うのでどの街に下りるのはわからない。

「下り坂だからって調子に乗ってスピード出すなよ。ここで怪我でもしたら、旅行先で風邪引くやつくらい萎えるからな」

常時ブレーキを踏みながら、ひたすら下っていく。全身に風を受けながら。三十分以上、ひたすら下っていくとようやく街が見えてきた。

「あれ、あそこのファミマ、◯◯中学校の近くのやつじゃない?」

僕らが通っていた中学校のすぐ近くにあるファミリーマートが見えた。ああ、こんなところに繋がっていたのか。ファミリーマートでタバコとコーヒーを買った。彼は新発売のタバコ(クジ付き)を買おうとしたが、店員に品切れだと告げられる。

「こちらのミスですいません…。良かったらクジだけでも持っていってください。」

外の喫煙所でクジを開いてみると、ペットボトルのコーヒーが当たった。多少恥ずかしさはあったが、すぐに先ほどの店員のところに行く。

「いやー、特に感動もなかったけど、なんかすればなんかあるもんだなあ」

微妙に家から遠いそのファミリーマートを出て、冷えたお腹とブレーキを踏み続けたせいで手がじんじんと痛むのを感じながら「しんどいなあ」などと言いながら家に帰った。